栗生流 謡いの源流を訪ねて

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祝いの席での謡

栗生の結婚式のながれと謡の演目

1.縁談

縁談は地区内や村内婚が多かったが、村外との縁談では旧 広瀬村の隣村である旧大沢と秋保との間でも行われた。

2.仲人

「仲人親(なごどおや)」とも言われ、仲人夫妻は「なごどお やじ」「なごどがが」と呼ばれた。昔はなこうどは「草履千足」とか「草履七足履かなければ、役目を果たせない」と言われたほど、双方の家に何度も足を運んだようである。

実際に縁談をまとめる人と、結婚式での仲人役が同一でない場合は、とりまとめる仲人は「下仲人(したなごど)」結婚 式での仲人は「頼まれ仲人(たのまれなごど)」と呼ばれた。

3.内酒・お茶振舞(結納にあたる)

縁談がまとまると、内酒(ねぇーざけ)を立てる。仲人は嫁方より茶をもらい、婿の家に行って渡す。婿方では親戚を招いてそれを披露しお茶振舞(おちゃ)をした。

4.結 婚 式

結婚式を「お振舞(おふるめぇ)」といって、式が婿や嫁の家で行われたのは、昭和四十二年までで、以後ホテルなどを式場・披露宴会場として行われるようになった。

栗生地区の結婚式は、他の地区と特に異なるところがないようであるが、式での謡は大蔵流と喜多流を合わせて謡えつがれてきたものを、大正4年に改流の必要を感じて「栗生流」と命名され、栗生に伝承されてきたものである。

また、結婚式は当人のためというよりも、家と家との祝い事であるため、盃事は仲人から婿方の主に対してのもので、新郎新婦の「三三九度の盃」は寝室での「床入りの式」で執り行なわれた。

⑴婿方での式

  • ①ちか迎え
  • 小学生の男の子二人(婿宅の親戚の子)が、提灯を持って向かい合って門口に立ち、花嫁の行列を出迎える。
  • ②嫁と見参(親戚の伯父・叔父)が婿宅に到着すると、接伴人が見参を案内して縁側から家の中に入ってもらう。嫁だけが玄関から入るが、敷居を跨ぐとき笠をかざしてもらい、準備した婿宅の味噌を指で摘んでなめる。
    ③婿方の両親・親族を接伴人が紹介し、お茶・菓子で接待し、暫時待ってもらう。
    ④接伴人の「どうぞ、座直りをしていただきます」の指示で、式の座席に着く。
    ⑤一同着座したところで、接伴人が「本日はお日がらもよく本当におめでとうございます。本日の接伴人の役を仰せつかりました〇〇でございます。式はこの地区に昔から伝わっている流儀により、この度は三献にて執り行ないたいと存じますので、なにぞとよろしくお願い申し上げます」と言って、嫁方に了承を得る。
    ⑥「熨斗上げ」
  • 〇和服に袴をつけ、腰に扇子を差した係の者が、高お膳に白米一升を載せ、その上に熨斗を載せて目の高さに捧げもってくる。
    〇仲人のすぐ前まで進んだ後三歩下がって座り、お膳を置いて前に差し出す。
    〇腰に差した扇子を右手にて自分の前に置き、深々とおじぎをして「熨斗上げ」が終わる。
    〇扇子を腰に差し戻してから座ったままでお膳に手の届く所まで進み、お膳を持って立上がり、そのまま三歩退き、向きをかえて戻り「熨斗上げ」が終わる。
    〇歩くときは畳の縁を踏まないように気をつける。
  • ⑦「謡上げ」
  • 〇「熨斗上げ」と同じ衣装の三人が、縦に一列に並んで仲人の前まで進み、横に並んで同時に座る。
    〇三人は前の者が三つ組の盃、中の者が銚子、後の者が祝い膳(細かく切ったスルメとコンブ、生大根の太い輪切りに、紙で作ったオモダカと梅を飾りとし刺してお膳に載せたもの)を持つ。
    〇持ち物を前に置き前に差し出す。中の者が「熨斗上げ」のように、扇子を前に置き、「本日は日もよく本当におめでとうございます」と挨拶をし、扇子を元に戻して接伴人の指示を待つ。
    〇接伴人の「御口合わせをしなさい」の指示で、「御口合わせ」をする。
    〇「御口合わせ」は、右手に雄蝶、左手に雌蝶を持ち、両側に置く。右手は銚子の取っ手を上から持ち、左手は取っ手を下から持ち上げ、注ぎ口を正面で合わせ、先ず右の雄蝶から雌蝶に注ぐ真似を3回して元に戻す。次に雄蝶・雌蝶を左右交換する。右手を左の雌蝶にかけ、その上から右の雄蝶を手にして、そのまま正面で交換する。この動作を3回繰り返す。
    〇接伴人が「盃を改めさせます」と言って、長老を指名して盃を差し上げるよう指示する。
    〇長老は飲み干してから、「結構な酒です」と言って盃を返す。
    〇接伴人から「謡を上げなさい」の指示で、小の盃を先ず仲人に渡し、雄蝶の銚子から酒を注ぎ飲んでもらう。返された盃を接伴人の後ろに座っている婿の父に渡し、酒を注ぐ。
    〇「四海波」と言っている「高砂」を謡う。謡の一小節は一人で謡うが、その後は係の者全員で謡う。
    〇中の盃、大の盃と同じ動作を繰り返すが、銚子は雄蝶・雌蝶交互に使う。
    〇盃を渡した後に、酒の肴を十㎝四方の白紙を対角線に折ったものに、箸で載せて渡す。
    〇婿の父親は最後の盃に酒を注いでもらったら、飲まないで神棚に供える。
    〇「謡上げ」が終わり、係の若者三人と父親は退席する。
  • ⑧接伴人からの「膝を崩して楽にしてください」の言葉の後、膳を用意して祝宴に入る。
  • ⑨「大 盞」
  • 〇「謡上げ」の係の三人が、三つ組の大盃、一升瓶の冷や酒、赤い焼き魚(大きなキチジかメヌケ)と箸を添えた大皿を持参する。魚を持つ役を「武蔵持ち」という。
    〇接伴人の「謡を上げて」の言葉の後、大の大盃を仲人に、中の大盃を仲人の隣りの方に渡し、酒を注ぎ酒の肴を箸で手に取ってやる。
    〇謡「長生」(養老)「なおよろこび」(春栄)を謡う。
    〇大盃を飲み干してから隣りに回す。(右と左に綾になるように)
  • ⑩三献が済んだ後、接伴人が「十分にいただきましたから、本膳にしてください」と、仲人に述べると本膳になるが、この時、初めて婿と脇婿が下座に座り食事をとる。
  • ⑪食事が済んだら接伴人が膳を下げさせる。嫁が嫁方の見参にお茶を出す。これが嫁ぎ先での嫁の初仕事となる。
  • ⑫見参は縁側から出て帰る。この時、「長持ち唄」を唄い「お立ち酒」を振る舞う。嫁方の見参の風習により、帰りではなく来た時に婿宅の門口で「長持ち唄」を唄うこともある。
  • ⑬「床入り」
  • 〇祝宴がおわったあと、手伝いの人々の祝宴に入る。
    〇新郎新婦の寝室で、床の枕元に二人が向かい合って座り、三三九度の固めの盃を交わす。
    〇この時の謡は、「高砂」「長生」「玉ノ井」である。
    〇寝室に入るのは謡の三人と女の人の四人で、女の人は布団に二人を寝かせてから退室する。

⑵嫁方の見参が持参するもの

  • 〇「キタル喜多留」 酒の入った漆塗りの樽二個を縄で結わえたもの
    〇「赤い魚」 二匹の腹を合わせて、水引きでエラを通して結び、笹ツトに入れて縄で五段か七段に結ぶ。持参する役を「樽担ぎ」という。婿方では酒、魚を入れ替えて返す。

⑶招待者

  • 〇一般招待者は「旦那様」、本家・分家などの重親戚の方は「皆様」と言って招待する。「皆様」とは家族全員の招待で、最低三日間早朝から行き、三食ご馳走になり手伝う。また、「見参」としてのお願いもある。

⑷手伝い

  • 〇女性は食器・お膳の準備、野菜類の料理作り。
    男性は物置などに二~三坪の調理場所を作り、魚を焼いたり、「めんばん」と呼ばれる地域の料理人の手伝いをする。

⑸当日の嫁方

  • 〇「見参」として招待をされた者は、部屋で主の指示で婿宅に座る順序のように座る。時間によっては軽い食事をする。一献いただいた後出発する。
    嫁は囲炉裏の横座に座っている父親に、今日まで育ててもらったお礼の言葉を述べる。父親は襟巻きを三回踏みつけてから、それを嫁の肩に掛けて送り出す。

⑹結婚式当日の役割と人数

  • 〇 接伴人  一人 (おしょうばん) 地域の有識者
    〇 ちか迎え 二人 小学生男子
    〇 熨斗上げ 一人 (のしあげ) 若い男性
    〇 御酌人  三人 若い男性、謡がやれて式に熟達した者
    〇 武蔵持ち 一人 (むさしもち) 若い男性
    〇 銚子取り 二人 両親健在の小学生男女、名目のみの役
    〇 折物等を作る係 四人 熨斗上げと御酌人が当たる。
    〇 嫁方見参の下足番

オモダカ(沢潟)について

栗生の結婚式に使われた「オモダカ」はその姿かたちからして、水田や湿地に自生する植物の「オモダカ」を模したものであると考えられる。  オモダカは、先端が鋭くとがった形をしており、人の顔に似ていることに(面高)その名が由来するという。  オモダカの栽培変種であるクワイは、お節料理などに利用され、「芽が出る」ことを連想させるため、縁起物として扱われた。また、矢じりにも似た形から、日本では、オモダカの葉や花を図案化した沢瀉紋(おもだかもん)という種類の家紋があり、「勝ち草」として鎧や武具などにも施されたそうである。

熨斗

熨斗

盃

三つの盃

銚子

銚子(雄蝶・雌蝶)

祝い膳

祝い膳